【考察】海外MBAは弁護士の役に立つのか

2022年7月23日

 このブログの最初の記事(当ブログについて)で、目的のひとつとして、「海外MBAが日本の弁護士の役に立つのかという疑問点の検証」ということをあげました。今回は、この点について、少し考えを整理しておきたいと思います。

なぜ疑問に思うのか

 まず、どうして「海外MBAが弁護士の役に立つのか」が、疑問になるのか。

 以前の記事(【自己紹介】HEC Paris 合格体験記)でも書いたとおり、日本の弁護士が留学する場合、多くはアメリカのロースクールに留学します。日本弁護士連合会では、海外ロースクール推薦留学制度も創設されていますが、海外MBA推薦留学制度はないようです。

 弁護士なので、当然、法律の勉強をしてレベルアップを、と考えるのが通常であり、実際に留学先で専門分野の深化を図り、帰国後にその分野でご活躍されている弁護士の先生はたくさんいます。

 私は、MBAに行くということを決めてすぐ、TOEFLの勉強を始める前の段階から、MBAに行きたいということを周囲に話していたのですが、多くの先生方から、どうしてLLMではなく、MBAなのか、ということを聞かれました。

 いずれも否定的な質問ではなく、単純に私の考え、ビジョンを知りたいということだったと思うのですが、日本の弁護士業界において、海外MBAを目指すというというのは、珍しい存在なのだと、その時点で改めて認識しました。

 そうなると、やはりLLMではなく海外MBAでよいのか、という疑問が湧いてきます。

 自分の中では、①企業法務弁護士として、②倒産再生弁護士として、③事務所経営に携わる弁護士として、私にとってはMBAの方がメリットが多いと考えたので、MBAという結論に至ったのですが、実際にLLMにもMBAにも行っていない段階で、その決定が正しいのかどうか、わかりませんでした。

 本当のところ、この判断が正しい判断だったのかどうか、HEC ParisのMBA課程を無事に卒業できて、そこで学んだことを弁護士としてのその後のキャリアで自分が活かせるのかどうか、そこまでたってから振り返らないと分からないような気もします。

 このように、私自身、この問いに対する答えは明確には出ていないのですが、おそらく、日本の弁護士の先生の中には、数年前の私と同じように、MBA留学に興味があり、ただその選択が正しいのか否か分からない、LLMとMBAとの間で揺れているという方も少なからずおられるように思います。

 だからこそ、このブログでは、同じように悩まれている方に対して私なりの見解、考えたことや実体験を伝えるということを、テーマの一つにさせて頂きました。

海外MBAが日本の弁護士の役に立つのか(仮説)

 上記のとおり、海外MBAが日本の弁護士の役に立つのかという問いに対する私の答えは、いまだ明確になっていませんが、仮説として、「役に立つ」と思っており、だからこそHEC Parisに今、留学しています。

 その論拠としては、やはり上記のとおり、①企業法務弁護士として、②倒産再生弁護士として、③事務所経営に携わる弁護士として、それぞれメリットがあると思うからです。

 もう少し具体的に考えると、①企業法務弁護士として、クライアントは企業ですので、企業のことを知っていなければなりません。

 企業が、何を考え、どういう理屈で、何をするのか、どのようなことが問題になり、どのようなアプローチでこれを解決するのか。企業での勤務経験がある弁護士の先生であれば、当然に分かるのかもしれませんが、そのような経験のない私は少ない知識から推測するしかありません。

 また、それでもおそらく企業ごとのカルチャーやシステムの違いがあり、それらを貫く経営の原理、原則を学ぶことが、弁護士として複数の顧問先の企業を深いレベルで理解し、質の高いリーガルサービスを提供することにつながると考えています。

 また、ファイナンスやM&Aといった特定分野においては、それらがまさにMBAで学ぶべき科目ともなってなり、リーガルを超えた案件の全体像を、経営の視点で理解することに資するのではないでしょうか。

 ②倒産再生弁護士としても、企業法務の側面がありますので、基本的に上記仮説が妥当すると思います。加えて、倒産再生弁護士は、その性質上、自ら直接的または間接的に経営に関与したり、破産管財人となってその判断で案件を進める場面も少なくありませんので、企業経営や問題解決の手法について学ぶことは、より直接的に、弁護士としての仕事のやり方に良い影響を及ぼすものと思います。

 また、経営上の問題解決能力を向上させることで、一見、破産やむなしの会社についても、事業再生や民事再生などといった、違った処理の仕方が可能になるのではないかと考えています。

 倒産再生弁護士としてのキャリアを重ねることで、専門性が高まりその結果として倒産再生弁護士としての案件処理の選択肢が広がることも当然に考えられますが、そのような道筋と違ったMBAというキャリアを経ることで、異なったアプローチや救済の仕方が見えてくるのではないか、と思っています。

 そして、③事務所経営に携わる弁護士としても、海外MBAの知識は活きてくると思っています。弁護士も、法律事務所を経営する以上、ある意味経営者であり、マネジメント力が求められます。

 中には天性のセンスでうまくマネジメントができている先生方もいるのかもしれませんが、自分のようなそうではない弁護士は、ある程度、試行錯誤しながら自らの理想にかなった経営手法について考えていくのではないでしょうか。

 その意味で、弁護士も企業の経営者と同じであり、MBAで学ぶ内容は、そのまま、経営者としての弁護士に役立つものだと考えています。

 また、2000年の広告規制の撤廃と、司法制度改革による弁護士数の急増、法律業務のIT化などによって、弁護士業界はさらに競争が進むと予想される中、自分がそれまで疎かにしていたマーケティングの本質の理解についても、必須となるのではないでしょうか。

 やや漠然としていますが、私はMBA生活、あるいは帰国後の弁護士人生において、これらの仮説が正しいのか否か、身をもって検証したいと思っています。これからMBA留学を考える先生方に対し、プラスとなるかマイナスとなるか分かりませんが、少しでもキャリアを考える上で判断材料となれば幸いです。

MBA,弁護士,法律

Posted by のすけ